もうすぐその夜明け



チェーザレ』の最後の一行を書き終えたとき,東の空がバラ色に染まりはじめていましたね。その日は,三十歳の誕生日だった。ペンを置きながら,私自身の青春に訣別した想いでした。おとなの世界に入って何をやるのか予定も立っていないのに,青春はもはや背後においてくるしかないとでもいう想いでしたね。
 作家には必ず一作,なぜか若い読者に好まれる作品がある。私に取ってのそれは,『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』です。この作品だけはなぜか,読者が常に若い。これが発表された当時は生まれてもいなかった人たちまでが,読んでくれているようです。主人公が若く,それに立ち向かった私も若かったからでしょうか。チェーザレ・ボルジアも燃えきった男だったけれど,私のほうも,書ききったといえる作品だからでしょうか。

 この文章をはじめて読んだのはいつのことでしょうか。そして,私に取ってその夜明けがいよいよやってきます。これまでに何をしたでしょうか。そして,これから何をするのか。そういう日が明日なのかなと思います。
 とはいえ,塩野さんがこの文章を書く前には,例のユリウス・カエサルの23の傷の話と,チェーザレ・ボルジアの23と言われている傷の話が書いてあるので,どこまでまにうけるのかという話はあるのですが。