葬送 第2部 - 平野啓一郎

 「葬送 第2部 十二」まで読了しました。
 イギリスに渡ったショパン,そのイギリスのどんよりとした天候とショパンの体調の悪化,そして「葬送」というタイトル。物語は結末に向かって着実に進んでいるような気がします。これからの展開が楽しみです。時間のあるときに読んで,先に進めたいですね。土日のお出かけでは,Diaryに書かないものを読んでいたので,あまり読めていないのですが,先の展開が随分気になっています。



 彼女と別々の人生を歩み始めてから,もう一年もの月日が経っている。そのことが彼には改めて驚かれた。最後の手紙を受け取った時から,自分は一体どれほど変わったというのであろう? 何かそれを少しでも実感させる徴があるだろうか? 今彼女との間に横たわっている隔たりは,向こうが遠ざかった分だけ生じたものに違いない。自分はあの時からまだ一歩も歩き出してはいない。顧みることのない彼女の背中を何時までも未練がましく見つめたまま。……

平野啓一郎 − 葬送 第二部 九 より


 数多くの男性を知り,そこから帰納される彼らの秘密に於いてショパンを理解しようというのではなく,夢想の描き出した−−しかし必ずしも単純ではない−−男性の幻影から演繹してショパンという人間を彼女なりに作り上げてゆく。彼女は何時でもそのショパンに対して忠実であった。自分が現実ショパンに対して寄せる好意が必ず喜ばれるという彼女の確信は,他人から見れば何の根拠もないことであったが,彼女からすれば恐らくは根拠など必要としない自明の事柄であった。

平野啓一郎 − 葬送 第二部 十 より