海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 上 − ルネサンス著作集4

読了しました(海の都の物語の第7話 ヴェネツィアの女まで読了)。この作品については,これまでにあちこちで書いているので,あまり細かいことは書かないでおこうと思っています。今この時期に読み返しているのは,海の都の物語における塩野さんの文明の衰亡史観の確認と,それとローマ人の物語の関連について確認したいためです。ですから,どちらかといえば,メインは5巻の第8話以降になるかなと思っています。
 何度も読んでいる作品ですし,塩野さんの著作についてWeb Siteでまとめたときは,この作品から取りかかったのですが,やはりヴェネツィアという海洋国家の制度作りとその運用は読んでいて興味深いですし,いろいろと考えさせられることがあります。これまでに何度も読んだ作品ですし,僕があれこれ言うときには,この作品に書かれていることをアレンジして話したりすることもあるのですが,読むたびに新しいことを見つけることが多く,それもこの長編の魅力かなと思っています。

 ローマ人の物語と関連づけて「海の都の物語」を読んでみたいという僕の思いは,塩野さんが「メイキング」で書いておられる,この「書物が読者の手に渡ったとたん」に起こった事象の1つなのかもしれません。



 書物とは,それが読者の手に渡ったとたんに,著者よりも読者のものになるのである。……
 今は昔,このように生きた人々と国家がありました,と物語るのが私の仕事です。それを読みながら,今の自分や日本や世界に想いを馳せ,改革する上でのヒントを見出すか否かは,まさしく読む人の感受性にかかっている。読む人しだい,と言ってもよいくらいに。

 創作とは,実に人間的な作業なのですね。著者が書き,編集者が書物に造り,出版者が売りに出したらそれで終わりになるのではない。読者も,どう読んだかを通じて,この作業に参加しているのです。つまり,読者の参加なしには,その作品は生きない。創作は完成しない。このことは,音楽でも美術でも映画でも,まったく同じだと思いますね。

メイキング『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』 上 より
 今回は旅の飛行機の中などで読んでいたのですが,今まで持っている文庫本では,あちこちページを折ったりしていて,以前に僕が考えたことの形跡が残っているので,今回はできるだけ真っ白な状態で読み進めるべく,手を付けていなかった「ルネサンス著作集」の方で読んでいます。それでも,チェックをつけているところが同じところだったりして,時間が経っても変わっていないところがあるんだなと思って読み進めています。ただ,書いてあることをチェックするときにルネサンス著作集版と文庫版を見比べると,助詞の置き方の違いや,記述の追加削除があったりして,塩野さんもルネサンス著作集を出版されるときに手を入れられたのか,それとも,文庫版が出版されたときにオリジナルから手が加えられていたのか,どちらなのかなと思ってDiaryを書いています。たぶん,塙嘉彦氏への哀悼の意が述べられている「読者へ」などがルネサンス著作集版では収録されてあるところから見て,ルネサンス著作集版がオリジナルなんだろうなと思いますが。