海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 下 − ルネサンス著作集5

「第十話 大航海時代の挑戦」まで読了しました。ヴェネツィアが興隆期にあった時期の話,それとともに周辺環境が都市国家中心から,専制君主国家へと変化し,ヴェネツィアがそれらに対応していかなければならないようになっていく話しは,この物語での中心的な主題であると思っています。残り4話残っていますが,もし「ローマ帝国の終焉」発売前に読めなくても,この海の都の物語は最後まで読んでからローマ人の物語の最終巻に取りかかりたいなと思っています。そういうことができる体制を整えるために,今月号のEnglish Journal本誌と,Magazine ALCは読んでしまいました。



 歴史では、無用な戦いと無用でない戦いを判別することはできない。深入りしすぎたか深入りしないで済んだかの、ちがいしか存在しない。興隆期は、時代が味方してくれるから簡単だ。この時期だと、主導権は自分たちの手にあるからである。それが、下降期に入るとむずかしくなる。時代の味方を期待できないうえに、受身に立たされた側には、主導権はもはやない。この時期の為政者には、興隆期の同輩に比べて、一段と懸命な舵取りの技術が要求されるのも、以上の理由による。彼らを、後手後手とまわったと言って、非難することはできない。非難できるとすれば、後手後手にまわらざるを得ないような時代に生まれてしまったということを、彼ら自身が充分認識していたかどうかという点についてだけである。しかし、このような才能は、人間の能力の中でも最も高等なものであるのもまた事実であった。

海の都の物語 第8話 宿敵トルコより


 ヴェネツィアは,大航海時代に抗しきれなくて衰退したのではない。植民帝国時代に応じられなくて,衰退の第一歩を踏み出したのである。

海の都の物語 第10話 大航海時代の挑戦 より