ローマ亡き後の地中海世界(上)

 昨年12月25日のDiaryで書いたように読了していたのですが,作品についてまとめて書いていなかったので,今日書いておこうと思います。今月下巻が出るので,それを読んだときに書いてもいいのかなと考えたりもしましたが,ここで一区切りしておくのが,これまでのこのDiaryでの読書メモのスタイルかなと思います。

 上巻では,パクス・ロマーなでは内海だった地中海が,境界の海と化してしまった西ローマ帝国崩壊から始まり,十字軍活動を経て,15世紀くらいまでの西地中海世界が舞台になっています。個人的な感想としては,ローマ人の物語の続きという側面に加えて,ローマ人の物語に着手される前のルネサンスものとの橋渡しという位置づけをこの作品に持たせているのかなと感じながら読み進めています。
 海賊が主人公ということもあってか,海の都の物語と関連している箇所が多くありますし,ロードス島攻防記やコンスタンティノープルの陥落などの戦記物三部作で登場する組織である騎士団の登場の記述などがあります。それらの記載を読むことで,橋渡しという色合いを強く感じました。
 まだ他にも感じたようなことがあるのですが,それは下巻も読んでから書くことにしたいと思います。



 文化文明の面で,どちらが優れどちらが劣っていたかの議論はしたくない。だが,自らの持つ力を最大限に活用することによる向上への意欲ということならば,「中世前期」は,絶対にイスラム側が優れていたのである。

ローマ亡き後の地中海世界 第一章 内海から境界の海へ さらなる進出 より


 後には中世・ルネサンス時代のヨーロッパの大国の一つになるヴェネツィア共和国を"解読"する鍵は,国益最優先,につきる。政治でも軍事でも宗教でも,優先するのは常に国益なのである。他の国の統治者が信仰とか名誉欲とかで頭に血がのぼった状態になったときでも,ヴェネツィアの統治者たちだけはそうはならない。憎らしいくらいのリアリストの集団が,ヴェネツィア共和国なのである。

ローマ亡き後の地中海世界 第一章 内海から境界の海へ ガエタ,ナポリアマルフィ より


平和パクス」は,安全を保障するだけではない。人間の間に横たわる距離を,縮める効用もある。中世前期とは,時代ならば進んでいるにかかわらず,人々の間の距離が古代よりもずっと離れた時代でもあった。ただし,地中海西方をわがもの顔に行き来していた,サラセンの海賊だけは例外であったのだが。

ローマ亡き後の地中海世界 第一章 内海から境界の海へ シラクサ落城 より


 アマルフィ,ピサ,ジェノヴァとは,先に台頭し先に衰退していった順序でもある。最後まで残ったのがヴェネツィアであったのも,ヴェネツィアが他のどの海洋都市国家よりも,忠実で頼りになる下級船員の恒常的な確保を可能にする,組織作りに成功したからではないかと考えている。もちろんそれが,唯一の要因ではない。だが,少なくとも要因の一つではあった。だからこそヴェネツィア共和国の船は,商戦でも軍船でも,漕ぎ手に奴隷を使わないことで,中世・近世を通して一貫できたのである。

ローマ亡き後の地中海世界 第二章 「聖戦ジハード」と「聖戦グエッラ・サンタ」の時代 ヴェネツィアの海賊対策 より