十字軍物語3

 第一章 獅子心王リチャードと,第三次十字軍まで読了。
 塩野さんはリチャードをかなりお気に入りの様子。
 ルビを読むまで「獅子心王」の原語が何だったか気がつかなかったのは内緒です。



「スルタンの非難は妥当ではありません。まず何よりも,キリスト教側の将兵たちの甲冑は強堅で,矢も剣も槍さえもはね返してしまう。
 だが,それよりも我々にとって手強かったのが,一人の騎士の敢闘ぶりでした。その騎士は常に最前線に立ち,馬上自らわれわれの騎兵をなで斬りにするだけでなく,剣を右手に左手だけで馬を駆りながら,戦闘の始めから終わりまで味方を叱咤激励しつづけたのです。
 この騎士一人でどれだけの数のわが軍の兵士たちを倒したかだけでもたいした男だったが,剣を手にしながら最前線を縦横に疾駆してやまないこの騎士こそが,戦闘の行方を決したと言ってもよい。獅子の化身かと思われるこの勇気ある騎士に,兵士たちは「メレク・リチャード」と呼びかけていましたが」
 このとき以来,であったという,リチャードが,「獅子心王」と呼ばれるようになったのは。

十字軍物語3 第一章 獅子心王リチャードと,第三次十字軍 闘い終わって より


 トップ同士の会談での通訳の使い方は,トップ二人は通訳が話す言葉を耳でとらえながらも,その眼は相手方に向けたままでいることが重要だ。つまり,通訳のほうには眼も向けないのだが,そうしてこそ初めて,交渉相手の人となりの観察も可能になる。人間とは,話しているときの視線の向け方とか手の置き方にも心中の想いが露わになるもので,通訳の声に気を取られていたのでは,この重要極まる観察がおろそかになる。

十字軍物語3 第一章 獅子心王リチャードと,第三次十字軍 「聖都」への道 より