海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 下 − ルネサンス著作集5

読了しました。やはり塩野さんがサイレント・マイノリティの「私の衰亡論」で述べてられるように,ヴェネツィアの通史という作品を通じて,塩野さんの文明衰亡論が述べられている作品ですから,いつもよりも真剣に読んでいました。ローマ人の物語の最終巻に入る前に必ず押さえておきたい作品でしたし。キーとなる考え方は,以前までの認識と同じで,今回はそれを確認できたと思っています。細かいところはこれまでの印象やローマ人の物語を通じてあれこれ考えたこと等で,印象が違っているところがありますが,それは時間が経過するに従って生じてくる,ある程度仕方がないことなのではないかなと思っています。なぜヴェネツィア建国の紀元452年から滅亡の1797年までを扱っているのに,この作品が「ルネサンス著作集」なのか? この質問に関する答えはいろいろあるのでしょうが,私が1つあげるとすると,この作品のメインはやはりルネサンス期にピークを迎えるヴェネツィアの政体と外交方針とそれが機能した状態を物語るためには,ローマ人の物語と同じで,国の建国から滅亡までを物語らないと「わからない」ということにあるのだと思います。ですから,一番のピークは第10〜12話だと思うのですが,作品としては14話まで必要になってくるということになるのだと思います。
 ローマ人の物語が完結し,最終のXV巻でも所々で触れられている「海の都の物語」は,「ローマ人の物語」のあとに塩野さんの他の作品を読んでみたいと興味を持っておられる方にぜひ読んで頂きたい作品です。「海の都の物語」と「ローマ人の物語」の2作品は,塩野作品の中でも重要な位置付けにあると個人的には思っています。